SAPPORO Magazine -Issue 01-5老舗和菓子店 札幌千秋庵の挑戦
Dec 10, 2020

SENSHUAN
老舗 札幌千秋庵の挑戦
THE KNOT SAPPOROが入るビルには、札幌千秋庵とセイコーマートがある。
どちらの企業も北海道で成長し、土地のものを使うことにこだわりを持っている。
ここでは、2つの企業の歴史と理念をひもといていこう。
トップ画像:THE KNOT SAPPORO1階に装いも新たに誕生した本店には、昭和の時代から愛された銘菓、それらをモチーフにつくられたオリジナルグッズが並ぶ。レトロで愛らしいデザインのお菓子やグッズは、お土産にも最適
Text by Hiroe Morihiro
Photo by Tsubasa Fujikura
いつの時代も舌に響く本物の味わいを
雪の結晶とヒグマが描かれた「山親爺」のレトロな缶を開けると、濃密なバターと卵の香りが、ふわりと鼻先をくすぐる。昭和5年の発売から変わらぬ味わいで親しまれている「山親爺」は、札幌の老舗菓子店「千秋庵」の代名詞だ。
名前の「山親爺」は、北海道の雄大な自然の象徴であるヒグマの別称。お菓子といえばあんこと餅が当たり前だった昭和初期に、地元産の高価なバターと牛乳、卵をふんだんに使ったレシピで焼かれた洋風煎餅は、贅を尽くして北海道を表現したお菓子だった。そのモダンな味わいと意匠を凝らしたパッケージは、道外の旅行者や文化人を夢中にさせた。
「材料は最上級のものをえりすぐり、その味を引き立てる水は、札幌扇状地の伏流水を地下90mからくみ上げて使う。その美味しさを守るために、手仕事を大切にする。創業者である菓子職人、岡部式二のこだわりは、徹底していました。その一貫した姿勢が、『山親爺』のような世代を渡って愛され続けるお菓子を生み出してきました。私たちは今も、その教えに忠実にお菓子づくりと向き合っています」と、4代目社長の庭山修子さんはにこやかに話してくれた。
「その一方で、開店時には札幌初のスイートポテトやシュークリームも売り出し、札幌の人を喜ばせたそうです。お客さまに美味しいお菓子を届けたいと、新しいものにも果敢に挑む精神もまた、創業者から受け継いだ私たちの大切な宝です」
伝統の技と革新の心を併せもった匠たちは、これまで4000種類ものレシピを生み出し、1000種類の商標登録を取得している。
たゆまぬ研鑽と挑戦する心を大切に
「札幌千秋庵」の創業者、岡部式二は群馬の農家に生まれ、12歳で東京の和菓子店に丁稚奉公に出された。真面目な性格と手先の器用さを生かし、誰もが認める職人に成長。大正7年、縁あって小樽千秋庵に招かれ、開道50年記念北海道博覧会の記念菓子をつくった。その技術の高さはたちまち評判になり、3年後には札幌で千秋庵の暖簾を掲げた。
一国一城の主となった式二は、もてる技術を惜しまず日夜菓子づくりに注ぎこんだ。茶事を彩る繊細な主菓子(上生)は、持ち前の絵心を生かし、スケッチをするところから構想を練り始めたという。そうした手間を惜しまぬ仕事は終生変わらず、昭和47年には和菓子の世界では初めて「現代の名工」にも選ばれている。

右:創業者の末裔である庭山社長は、和菓子職人の育成にも熱心に取り組んできた。「これまで同様に1日1日を大切にしながら、若いスタッフ、職人の感性を生かした“今の美味しさ”を真っすぐ届けたいと思っています」と庭山社長
温故知新の心で拓く次世代の扉
千秋庵が札幌に誕生してもうすぐ100年を迎える。THE KNOT SAPPOROは、その生誕の地に建つ。ホテルの開業に先駆け、4月24日には「札幌千秋庵」の新たな門出のシンボルとなる本店が誕生した。旧店舗のシンボルでもあった伏流水の井戸はそのままに「体験と感動」をテーマにした新しい試みも盛り込まれた。
中でも、甘党の目と舌をわしづかみにしているのが、パイ菓子「ノースマン」の焼きたて販売。
「パイのサクッとした食感と熱々のあんのハーモニーは、今まで工場で働くモノしか知らなかったノースマンの美味しさです。創業者がこだわり続けたできたての美味しさを、新しいスタイルで楽しんでいただけたらと思っています」
お菓子以外にも、新店舗には人気の「山親爺」のクマのモチーフやレトロなパッケージデザインを生かしたハンカチやマスキングテープ、がま口などのオリジナルグッズを扱う「くまの小物屋」も併設。
「山親爺のモチーフを特注でつづれ織りにしたがま口は、手作業で仕上げています。こうした小物たちも、お菓子同様長く愛されるように本物にこだわりました」
4代目にして初めての女性社長となった庭山さんのたおやかな改革は、まだ始まったばかりだ。
札幌千秋庵新本店
札幌市中央区南3条西3丁目 市電狸小路駅前
TEL. 011-205-0207
10:00~19:00