SAPPORO Magazine -Issue 01-4陣内雄の記憶に残る山とは
Nov 19, 2020

Mountain is

ヤマに導かれ、ヤマを仕事のフィールドとする。
足立成亮と陣内雄は、フリーランスのキコリ。
いま2人は札幌にあるヤマで、黙々と道をつくり続けている。
ヤマと人とをつなぎ、互いの境界をつくり出すのが道。
この道をキーワードとして、彼らがヤマに向ける眼差しに迫る。
Text by Michiko Kurushima
Photo by Ikuya Sasaki
004 BEST MOUNTAINS

記憶に残るヤマとは
by Takeshi Jinnouchi
No 1 Shimokawa
若い頃仕事で入った国有林
完全にピースフルな谷。ニレの大木と地面を埋め尽くす花、時間が止まっていた。「完全」とか「調和」っていうのが、現実なんだとわかる場所。靴を脱ぎ、ずっとそこに座っていた。
No 2 Shimokawaる理由は?
1996年から4年だけ住んだ下川町上名寄の里山
伐採後の再生林だけど、なかなかピースフルな場所だった。野生動物がたくさんいて、生き物のパワーの強いところ。日本初かもしれないストローベイルハウスを建てた。
No 3 Shimokawa
下川町、国道から遠目に見える森
1995年当時は大木が林立し、往年の大森林を想像できた。道北の厳しい環境でも素晴らしい森が成立することを確信した。いまでもその森を目指して森づくりしている。10年ほど前に伐られてしまった。
No 4 Nakagawa
中川町板谷にある森
天然トドマツと広葉樹が混交したこれぞ道北の混交林という感じの素晴らしいスポット。130年生の天然トドマツ「天トド」は人口植栽されたトドマツとは違う完全なる生き物だった。地形が急峻なため伐採されず残された場所。
No 5 Sapporo
幼少のころ。自宅となりの祖父の家の小さな林
森とは呼べないけど、自分にとっては十分「森」だった。「象の足」と自分が勝手に名前をつけた木があって、いつも会いに行っていた。札幌の平岸から南区に引っ越して、その木も移植されたけど枯れてしまった。どんな山もそれぞれ魅力があるし、人の関わり方と時間のかけ方次第で素晴らしいヤマになるはず。関わる人が素晴らしければヤマも素晴らしくなる。

記憶に残るヤマとは?
by Shigeaki Adachi
No 1 Takinoue
滝上町の北東部、紋別との境の切り立った森
滝上町に住んでいたころ、夜に車を走らせてふらりと行った。山鳴りがどこかしこと聞こえる不思議な場所で見える景色は森オンリー、月が綺麗。
No 2 Takinoue
滝上町の南部、滝西地区熊出の沢
「森の子どもの村」(「おじじ」と「おばば」と呼ばれる2人が営んでおり、全国から子どもたちが訪れキャンプ生活を行う場所)。毎年夏になるとそこの住人が森にテントをたて、森主体の生活が始まる。子どもたちだけのコミュニティが形成され、そこに入り込む者はまず彼ら彼女らに叱られ、洗礼を受ける。
No 3 Tohma
当麻町南部、約0.04ヘクタールの
とても小さな個人所有林
テリトリーに入った瞬間、物寂しい森の空気を感じ、帰るときは、足を引き留めるような強い思念に似たモノを感じ、しばらくその森から出ることができなかった。森の個性をより強く意識するきっかけになった森。
山ではなくヤマ。つまり地面であり地球
ヤマとは何か? ズバリひと言で答えてほしいと投げかけると、ヤマに対するイメージが一般的なものと異なることがわかってきた。
「山というと『恵庭岳』のような、登るための山と捉える人が多いと思います。でも、ヤマは芝刈りをしに行くところでもあるし、オレらにとっては現場。『今日ヤマ?』と聞かれたら、それは『今日現場?』って、ことだと思います」(足立)
「オレは、生活ってのもあるな。たとえば『山菜採りに行くべ』ってなったら、虫除けスプレーや熊鈴とかハードな準備をしないで、玄関からフラッと出て行ってプチプチっと採って喰うだけ。裸で寝転んだり、野鳥や小動物がやってきて、それを眺めながらビール飲んだり。外で焼き肉したら熊がくるから、ちゃんと片づけて寝るべとか。それって生活じゃない?でも、生活って言ってもなんか伝わらないだよね」(陣内)
まちに住んでいる人たちとの共通言語が存在していないと2人は語る。山というと、どうしても登山をする山だと誤解されるので、言葉をカタカナで表記するようにしているという。
「ヤマって地面なんですよ。ヤマとは?と言われると、オレら人間も含めたすべての生き物が住むところ。ただの地面であり、ただの地球である。それ以上でもそれ以下でもない」(足立)
「ヤマはヤマだよね~。あたりまえすぎて、ヤマとしかいいようがない。みんな遊びに来てくれればわかる。だから道をつくってるんだよね」(陣内)
足立成亮
1982年札幌生まれ。大学在学中から札幌で写真作品制作などの活動をした後、2009年滝上町へ移住。森林調査・森林作業を行う企業にて山仕事の修行を始める。2012年旭川市にて独立、outwoodsと名乗る。山奥の林業から薪の販売、里山アクティビティまで多彩な活動を展開。2016年冬、故郷の札幌に本拠地を戻し、キコリとして活動中。THE KNOT SAPPOROにあるギャラリー「KADO」で森をテーマにした展示に参加。
陣内雄
1966年札幌生まれ。東京芸術大学建築科卒。設計事務所勤務後、1993年下川町森林組合で働きつつ、音楽活動も行い1999年にCD「北の国へゆこう」を発売。2000年より森林組合でエッセンシャルオイルの新規事業立ち上げ。2006年旭川でNPO法人もりねっと北海道を設立、代表を務める。2015年フリーで林業や森の空間づくりを行う。2019年「キコリビルダーズ」の活動開始。